1, 悪徳の勧誘(異獨、軽巳亜) ページ1
日の出、雨上がりの歓楽街に1人の男が倒れていた。酔っ払いのように座り込むのではなく、道の真ん中で固まったセメントの上に堂々とうつぶせになっていた。
よく見たことのある人間だったため、首元に手を当ててやる。動きを感じるまでもなく温度が生物のそれではなかった。
「ハッピーじゃないねぇ」
この男は自分が作った『楽園』のお得意様な使用者だった。最近カネが足りないとのことで、いくらかまけてやったのに。このざまだと効果切れ中に飛び降りでもしたのか。
緩く首を振ると、ライムグリーンの髪が横に揺れる。そろそろ前髪を着るべきか、と指をハサミの形にして髪をはさんだ。
「普通、行き倒れにまたがって前髪を測ります?」
ブロンド髪の女がヒールの音を鳴らし、疑わしげな視線をこちらに向けていた。片手をあげてあいさつする。
「キミのこと知ってるよ。前に誰かが写真を見せてくれた……カサンドラさんだっけ?」
「軽巳亜です、ギリシャ神話じゃありません!貴方は異獨ガブさんですわね?」
首肯する。一方的に名前を知られる状況は少なくないので――多幸感を求める人々が勝手に両膝をついてくれるため、この状況に焦ることはなかった。
女にあごで合図すると、彼女は手を組み体をたおやかに傾けた。
「単刀直入に申しますと、わたくしの作戦に参加してほしくって♡」
「えーやだ」
「即答ですか!?」
女から色が消え、代わりに素っ頓狂な声が上がる。男の死体から立ち上がって、あまりある袖を揺らしてぐるりと回った。
「キミさ、なぁんか騙して来そうなツラしてるんだもん」
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作者名:バニー芳一 | 作成日時:2024年4月16日 19時