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暫く、家にも帰らずに、ゾムと一緒に廃墟ホテルで暮らした。
そして別れの日。
2人でいつものように寄り添いながら、夜行バスの時間を待つ。
窓から覗く月の灯りが、ゾムの痣を照らしていて、それに触れようとすると、ゾムは私を引き寄せ、抱きしめた。
｢なあ、トーキョーなんて行かんといてや…俺を、置いて行かんで…｣
震える声に揺れそうになる心が、不安を煽り、ゾムを突き飛ばして、バス停まで走った。
もう、さよならだよ。
何年も、新宿で春を売っていれば、風俗街の街並みは見慣れてしまうもので。
でも、1人になる度に、あの時の、
突き飛ばしたあとの、
ゾムの、泣きながら睨む顔が、フラッシュバックする。
私は、どうするのが正解だったのかな。
何も信じれなくて、家から逃げたかった。
けど、2人でいようと言ったゾムを置いて新宿まで来てしまった。
あのまま、2人でいれば、良かったのかな。
今更戻ってもゾムを置いてきた事実は変わらない。
後悔のようなよく分からない感情を抱えて歩いていると、ピンクのネオンの下に、誰かが立っているのが目に入った。
痛々しいあの、青いアザは。
理解するより先に、その人が動いて、私を抱きしめた。
｢A…会いたかった…｣
｢ゾム、どう…して？｣
｢会いたくて、会いたすぎて…夜行バス、忍び込んでもうた｣
前髪の隙間から覗く瞳は、相変わらず潤んでいた。
｢シンジュクの、こういう街で待ち伏せしてたら、会えるかなって、思ってたら、ほんとに会えた｣
自分勝手に私が置いてきた彼は、自分勝手に私を追いかけてきてしまったようだ。
ゾムがあの時のように、私の手を引いた。
｢なあ、2人で隠れられるとこ、探しいこ｣
｢何年も、隠れられるところがいいね｣
どちらからともなく指を絡め、路地裏へと足を進めた。
大阪路地裏少年
｢もう置いて行かんといてや｣
｢行かないよ｣
｢俺のAはすぐどっか行ってまう｣
｢私のゾムを置いていけないよ｣
｢何回でも追い掛けて待ち伏せしたる｣
｢じゃあはぐれても大丈夫だね｣
｢あかん｣
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作者名：ビリヤニ | 作成日時：2024年1月18日 19時
