僕の青春は彼女と共に/syp ページ36
｢今日集まってくれた皆、ありがとう！私達バンドは、今日をもって無期限活動休止します！｣
突然の言葉に、脳の処理が追いつかなかった。
俺の推していたマイナーバンド。
ロキノン系で口ずさみやすくノリやすいフレーズが特徴的だった。
えげつない指の動きで弾かれるリズム達に、初めてこのバンドを見た時、目も耳も奪われたのを覚えている。
その中でも推していたのはベースのA。
楽しそうにベースを弾く様子。
ドラムや他のメンバーを見ながら嬉しそうに目を細める様子。
俺たちファンを見てはにかむ様子。
煽るようにスピーカーに足をかける様子。
全部全部、輝いて見えた。
でもそうやな、完全に推すって思ったのは、物販の時。
｢んーと、名前、は…なんて書きますかー？｣
ライブの時の印象とは違って、ほんわかとした口調で聞かれた瞬間、そのギャップにやられた。
｢…じゃあショッピ、で｣
｢しょっぴさん？可愛いあだ名ですねー｣
ひらがなで書かれたしょっぴさんへ、という文字にニヤけが止まらなかった。
それからはもう、何度も何度も足繁くライブに通った。
行ける範囲の会場は絶対行って、Aの目の前最前の場所を取る。
SNSは完全にチェックして、返信。
同じCDは持っているが、サインや話す時間が欲しいから、何枚目になっても毎回買う。
何回目からかAも俺を認知をしてくれて、名前を聞かれることも無くなった。
A推しということを他のメンバーも分かっており、極力俺らの会話の邪魔はしないようにしてくれていた。
｢しょっぴくん、対バンでもイベントでも毎回来てくれるから心強いよ｣
｢あ、えと…A、さんを、1番近くで、応援したいんで…｣
｢ありがとうー！いつか、もっと大きな会場に立てた時も、1番前にいてね｣
そうやって言ってたのにな。
まだまだ、全然小さいやん、こんなキャパのライブハウスなんかさ。
俺は、ずっと、ライブをするAを見てたかった、だけだった。
変に繋がろうとするガチ恋とは違う。
…いや嘘。妄想はした。もし願いが叶うならとも思っている。
でも、ステージに立っているAを見れるだけで、満足やった。
｢ごめんねえ、しょっぴくん。何年も応援してくれてたのに｣
｢い、や…皆さん、色々ありますもんね｣
いつも以上に言葉が出てこない。
視界が薄く歪むが、泣いてはいけないと堪える。
その後2、3言話し、写真を撮って俺の最後のライブは終わった。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 21人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：ビリヤニ | 作成日時：2024年1月18日 19時
