〃 ページ37
それから俺の生活が変わった。
ライブに行かなくなったから。
休日もすることが無くなった。
世界がくすんで見えて、やる気が起きない。
先輩や友人から心配の連絡が来、それに返信をしたり、誘いに乗って出かけたりはするが、やること全てに彩りはない。
昔の動画やライブ映像を見返して、溢れる涙を擦る。
最後に撮ったツーショットを見て、思い出にふける。
｢楽しかった、なあ｣
しみじみとそう呟いた瞬間、携帯が鳴った。
…先輩から、早急に喫茶店に来いという連絡だった。
渋々重い腰を上げ、指定された喫茶店へ向かう。
｢おー！ショッピくん、早かったやん！｣
｢コネシマさん…｣
喫煙可能な喫茶店のようで、煙草を吸いながら待っていたコネシマさんの目の前に座る。
｢お前、またやつれたなあ｣
｢何もやる気、起きんくて｣
俺の事情は分かっている先輩は、ほおか、と一言呟いて珈琲を飲んだ。
｢…まあ、そんなショッピくんに朗報やわ｣
後ろ見てみ、とコネシマさんが指差した先…俺の後ろの席を覗き見れば、Aが、いた。
知り合いといるようで、楽しげに話している。
｢あれ、ショッピくんの言うとったナントカちゃんやろ？ツーショットとか自慢しとったもんなあ、すぐ分かったわ｣
｢ちょっと黙っててください｣
久々に見れたAの声を聞き逃すまいと、後ろの声に集中する。
｢そういえばAさあ、バンドはどーすんの？活動休止ってことはまたやんの？｣
｢んー、たぶんやれないかなぁ…ギターとドラム別れてギクシャクしてるし｣
｢そっか、結構頑張ってたのにねえ…ひとりでやったりしないの？｣
｢ん？すると思うよ。音楽からは、やっぱり離れられないや｣
する。音楽を。ひとりで。Aは。
その話を聞き、頭の中が喜びで溢れた。
また、推せる。
コネシマさんが俺を見て引いた顔をしているが、一切気にならなかった。
何日後か、何ヶ月後か何年後か、分からないけど。
Aを推せる生活が返ってくる。
その事実が分かった途端、俺の世界に色が戻った。
僕の青春は彼女と共に
路上で、1人でギターを弾きながら歌うAを見つけた。
少ない人だかりの後ろから、そっと演奏を聴く。
俺を見て、目が合った瞬間、嬉しそうに目を細めて、
久しぶり
と動いた口に、また俺は惹き込まれるのを感じた。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 21人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：ビリヤニ | 作成日時：2024年1月18日 19時
