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祖父のこいの味 ページ18

・戦争表現
・死の表現(大往生だけど)
・なんか気持ち悪い
・おさかなてんごく

ーーーーーーー

死んだ父方の祖父は、食べることが好きな人だった。祖父はどんな料理であっても、世界一の美食を食しているかのごとく、それはそれは美味そうに食事をする人だった。
祖父はいつも、綺麗な姿勢と綺麗な箸使いで、上品にものを食べた。そのとき食べているものが、祖母の手料理だろうが屋台のたこ焼きだろうが、ドレスコードがあるフレンチ料理店で食事をしているかのように、優雅に食べていた。普段は、酒を飲み、昼間でもいびきをかき、下着一枚で部屋を歩き回る、優雅さのかけらもない祖父だったが、食事をする時だけは名のある名家の当主かのごとく、しとやかで洗練された動きをするのだった。

ふと気になって、何故そんなにも食べることが好きなのかと祖父に問いた事がある。祖父は答えた。
「俺の父____お前の曾祖父さんはな、戦争で兵隊になって、行った先で餓死したんだ」
わたくしは沈黙した。祖父はわたくしの頭を撫でながら続けた。
「それを聞いた母さん__お前の曾祖母さんは、俺と兄弟たちに言ったんだ。「食に感謝しなさい」ってな。」
わたくしは何も言えず、しばらく黙ったままだった。祖母が夕飯が出来たと呼びに来るまで、わたくしはそのことを考え続けていた。つまるところ、祖父の上品な食事の仕方は、『食べる』という行為に敬意を払ってのことだったのだろう。いや、それだけではない。どんなものでもおいしそうに食べる姿も、彼の食への感謝の表れだったに違いない。そんな彼だが、とりわけ好きで、いっとう愛していた料理は、中華であった。
何かしら、良い事があると、少し遠くの中華料理屋に家族を連れて行った。わたくしも例外ではなく、七五三の時、小学校に入った時、進級した時____そういった祝事の際、何度か祖父に連れられて、異国の香りがするその料理屋に行った。といっても、幼い頃のわたくしの舌には異国の料理の味つけはいまひとつ合わず、回るテーブルの上に並べられたうつくしい料理を、いつもただ眺めているだけだったのだが。

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あいすくりぃむとちょこれぃと(プロフ) - すにすな@さくらぁさん» またまたコメントありがとうです。兄がぽんこつならもちろん弟だってぽんこつです。間に合ったルートは(弟的には)ハピエンです。間に合わなかったルートも(どっちも壊れちゃったから)ハピエンです。 (4月23日 14時) (レス) id: b2ed5b6349 (このIDを非表示/違反報告)
すにすな@さくらぁ(プロフ) - またしてもコメ失礼します🙇‍♂️弟視点に命が助かりすぎました。まさかの救済ルートか!?と思ったら案の定そんなものはなく…やっぱり可哀想な男はどう足掻いても可哀想な結末しかないんだというのを再認識できてとても良かったです。 (4月23日 7時) (レス) @page25 id: 6eb52e408b (このIDを非表示/違反報告)
あいすくりぃむとちょこれぃと(プロフ) - すにすなさん» コメント感謝です〜こいつは実は弟より全然頭良いです。頭が良いせいで頑張っても無駄と気づいてしまいました。それでも他にやりようはあったのに、『逃げ出す』という一番の悪手を選んでしまうぽんこつです。作者もお気に入りなのでもしかしたら続くかもしれない。 (4月8日 23時) (レス) id: b2ed5b6349 (このIDを非表示/違反報告)
すにすな(プロフ) - お話の世界観や最後の後味の悪さに引き込まれ、一気に読んでしまいました。特に2作目のおにいちゃんのお話が大好きです。一生懸命頑張ったけど報われず、最期の瞬間は惨めであっけない男が好きなので、ゼストおにいちゃん最高でした。密かに更新楽しみにしています。 (4月8日 22時) (レス) @page21 id: b675f659fc (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:あいすくりぃむとちょこれぃと | 作成日時:2024年4月6日 3時

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