検索窓
今日:31 hit、昨日:68 hit、合計:5,342 hit

ページ20

俺はなあ、ガキの頃、一匹の鯉を飼ってたんだ。それはもうデカくて綺麗な鯉さ。川で釣り上げた時、神様の使いだと本気で思った。一瞬川に帰してやったほうがいいんじゃないかって思うくらいさ。家に持ち帰ってからは毎日エサをやって、こまめに水槽も掃除してやって……俺のもう一人の家族ってくらいに、大事に大事に飼ってたんだ。キレイな鱗でなあ、黒曜石にだって負けない鱗だって、あの頃は本気で思ってたさ……まあ、つまり、少し大袈裟なくらいその鯉が好きだったんだ。
あ?なんで今は鯉を食べてるかって?……それはな、美味しかったからだよ、その鯉が。
何か、試験でいい点を取れたとか、競争で走りが一番だったとか、そんなことだったと思うが……なにか良いことがあったんだよ。それで、倹約家な母さんが珍しくご馳走を作ってくれるってんでな、楽しみにしてたら、そのご馳走として、俺のかわいがってた鯉が食卓に並べられたんだ。
泣いて怒ったさ。俺の家族なのに、って。俺の世界一の鯉を、よくも殺したなって母さんに怒鳴った。母さんからすれば、ただでさえ貧乏なのにエサ代も水代もかかる鯉なんざ、いないほうが嬉しかったんだったんだろうなあ。……食べたのかって?もちろん。
『食に感謝を』が我が家の方針だからな。残さず食ったよ。可哀想に、こんなことになる前に逃がしてやれば良かった、なんて最初は思ってたけどな、だんだん夢中になっていったよ。俺の手で育てて、かわいがって、ここまで美味しくなったってことに感動したんだ。それから、俺の好物は鯉になった。だから、鯉の料理が出るこの料理屋によく来るんだが……どうにも、あの時ほど美味い鯉には出会えてないなあ。

*→←*



目次へ作品を作る感想を書く
他の作品を探す

おもしろ度を投票
( ← 頑張って!面白い!→ )

点数: 9.6/10 (19 票)

この小説をお気に入り追加 (しおり) 登録すれば後で更新された順に見れます
6人がお気に入り
設定タグ:性癖 , 短編集 , オリジナル作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告

感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)

ニックネーム: 感想:  ログイン

あいすくりぃむとちょこれぃと(プロフ) - すにすな@さくらぁさん» またまたコメントありがとうです。兄がぽんこつならもちろん弟だってぽんこつです。間に合ったルートは(弟的には)ハピエンです。間に合わなかったルートも(どっちも壊れちゃったから)ハピエンです。 (4月23日 14時) (レス) id: b2ed5b6349 (このIDを非表示/違反報告)
すにすな@さくらぁ(プロフ) - またしてもコメ失礼します🙇‍♂️弟視点に命が助かりすぎました。まさかの救済ルートか!?と思ったら案の定そんなものはなく…やっぱり可哀想な男はどう足掻いても可哀想な結末しかないんだというのを再認識できてとても良かったです。 (4月23日 7時) (レス) @page25 id: 6eb52e408b (このIDを非表示/違反報告)
あいすくりぃむとちょこれぃと(プロフ) - すにすなさん» コメント感謝です〜こいつは実は弟より全然頭良いです。頭が良いせいで頑張っても無駄と気づいてしまいました。それでも他にやりようはあったのに、『逃げ出す』という一番の悪手を選んでしまうぽんこつです。作者もお気に入りなのでもしかしたら続くかもしれない。 (4月8日 23時) (レス) id: b2ed5b6349 (このIDを非表示/違反報告)
すにすな(プロフ) - お話の世界観や最後の後味の悪さに引き込まれ、一気に読んでしまいました。特に2作目のおにいちゃんのお話が大好きです。一生懸命頑張ったけど報われず、最期の瞬間は惨めであっけない男が好きなので、ゼストおにいちゃん最高でした。密かに更新楽しみにしています。 (4月8日 22時) (レス) @page21 id: b675f659fc (このIDを非表示/違反報告)

作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ

作者名:あいすくりぃむとちょこれぃと | 作成日時:2024年4月6日 3時

パスワード: (注) 他の人が作った物への荒らし行為は犯罪です。
発覚した場合、即刻通報します。