なにもかもダメなおにいちゃん。 ページ7
・モンスター闊歩してる系ファンタジー世界
・拗らせ過ぎた兄貴
・『www』と草生やし表現
・死ネタ
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物心ついた時から、俺には弟しかいなかった。
父も母もいない。優しくしてくれる人もいない。
でも、弟がいた。
本当に兄弟なのかはわからない。でもなんかずっと前からそばにいるし、舌っ足らずにも俺を兄と呼んでいたし、多分弟で間違いない、と思う。
俺にとって、弟は守らなきゃいけない存在だった。俺が助けなきゃすぐ死ぬ弱い生き物。俺がいないとすぐ泣いて世界の何もかもを怖がるような、そんな弟。俺はそんな弟が好きだった。
「ほら、飯盗ってきたぞ」
弟に盗んできたパンを渡せば、掠れた声でありがとう、と呟いた。泣きながらパンを頬張る弟を寒くないようにとしっかり抱きしめる。
盗みがバレて殴られ、少し腫れた頬を気にしながら、腕の中の弟を撫でた。
俺と、弟と。兄弟二人きり。それが俺の世界の全てだった。
俺の世界が壊れ始めたのは、確か冬の日だった。息は真っ白、指先は真っ赤で、俺たちは凍えていた。普段盗みで物を得てなんとか命火を繋いでいたが、その日は寒くて、盗むどころか街を歩いているやつすらいなかった。いたとして、そいつらも俺たちとおなじく凍死寸前の物乞いだろうが。
「お前たち、こんな寒い日にどうした」
俺たち二人に手を差し伸べた老人がいた。俺は咄嗟に金持ちだ、盗らなきゃ、なんて思ったが、指先が赤を通り越して青紫に変わり始めていて、その場から一歩も動けなかった。
「行くところがないなら、この老いぼれのところへ来るかい」
頭の回らない俺がそのまま勢いに任せて頷いたのか、それとも弟が頷いたのかわからないが、老人はわかった、と言う風に俺達二人を抱え上げた。この骨と皮だけのように見える老人のどこにこんな力があるのか甚だ疑問だったが、問いかけるだけの気力はとうになかった。老人は着ていた大きなコートを俺たちに被せて、のそのそとゆっくり歩き出した。弟が、老人の腕からはみ出そうな俺の体を必死に支えていたのを覚えている。
老人は想像通り金持ちで、そして物好きな男だった。学も力もなんなら名前もない俺達に何もかもを与えた。
服や食い物、住処を与え、教養を与え、そして名を与えた。兄や弟という記号ではない。俺達個人を表す名を、老人は与えた。
俺は【ゼスト】、弟は【アーミル】。
その日、ようやく俺たちはこの世に生まれた。
そして、少しずつ、俺の世界は軋み始めた。
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あいすくりぃむとちょこれぃと(プロフ) - すにすな@さくらぁさん» またまたコメントありがとうです。兄がぽんこつならもちろん弟だってぽんこつです。間に合ったルートは(弟的には)ハピエンです。間に合わなかったルートも(どっちも壊れちゃったから)ハピエンです。 (4月23日 14時) (レス) id: b2ed5b6349 (このIDを非表示/違反報告)
すにすな@さくらぁ(プロフ) - またしてもコメ失礼します🙇♂️弟視点に命が助かりすぎました。まさかの救済ルートか!?と思ったら案の定そんなものはなく…やっぱり可哀想な男はどう足掻いても可哀想な結末しかないんだというのを再認識できてとても良かったです。 (4月23日 7時) (レス) @page25 id: 6eb52e408b (このIDを非表示/違反報告)
あいすくりぃむとちょこれぃと(プロフ) - すにすなさん» コメント感謝です〜こいつは実は弟より全然頭良いです。頭が良いせいで頑張っても無駄と気づいてしまいました。それでも他にやりようはあったのに、『逃げ出す』という一番の悪手を選んでしまうぽんこつです。作者もお気に入りなのでもしかしたら続くかもしれない。 (4月8日 23時) (レス) id: b2ed5b6349 (このIDを非表示/違反報告)
すにすな(プロフ) - お話の世界観や最後の後味の悪さに引き込まれ、一気に読んでしまいました。特に2作目のおにいちゃんのお話が大好きです。一生懸命頑張ったけど報われず、最期の瞬間は惨めであっけない男が好きなので、ゼストおにいちゃん最高でした。密かに更新楽しみにしています。 (4月8日 22時) (レス) @page21 id: b675f659fc (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:あいすくりぃむとちょこれぃと | 作成日時:2024年4月6日 3時